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コトラーの市場地位戦略から考えるお笑い芸人の生き残り戦略【飯田展久】
経営戦略を学ぶ上で避けて通れないのがフィリップ・コトラーの市場地位戦略です。
コトラーは、市場シェアによって、企業のポジションをリーダー・チャレンジャー・フォロワー・ニッチャーの4つに分類し、それぞれのポジション別のとるべき行動と、とってはいけない行動を示しました。
企業のポジショニングを確実に行うことができれば、基本的な行動が示されるというわかりやすさが魅力といえるでしょう。
今回は、この市場地位戦略をお笑い芸人に当てはめてみます。
リーダー
明石家さんま、ダウンタウン、タモリ、所ジョージ、ナインティナイン、(新)くりぃむしちゅーなど
ここでは、いくつもの冠番組を持っている芸人さんをリーダーとしました。
ビートたけしは、文化人ということで・・・。
このグループがやるべき行動は同質化戦略と全方位戦略です。他のグループに属する芸人がやって、受けたことをどんどん取り入れ(同質化)、色々な種類の番組に出演(全方位)することで、生き残ることができます。
同質化戦略ですが、若手芸人が体を張っても、「でも、ダウンタウンは年末に体張ってるし、ナインティナインも体張るよね」と言われれば、その方がどこかすごく感じますよね。
また、知名度を活かして出演番組のレパートリーを広げるという全方位戦略を行うことで、追随者の入る余地を減らすことができるわけです。
やってはいけないことは、価格競争です。
このグループに属する芸人が、出演料を下げると市場自体が縮小してしまいます。
例えば、明石家さんまさんが出演料を一気に引き下げると、他の芸人さん達には「さんまさんがこの出演料なのに、あなたがこんなにとるんですか?」と言われてしまうでしょう。
すると結果として、お笑い全体の出演料が下がってしまうわけですね。
さて、くりぃむしちゅーの前に(新)と書いたのには理由があります。
といいますのも、彼らは数年前までチャレンジャーに位置していました。
しかし、現在の番組数をみると、そこから、リーダーの一角に躍り出たと言えるでしょう。
そこで、次はチャレンジャーの説明です。
チャレンジャー
雨上がり決死隊、ロンドンブーツ1号2号、(元)くりぃむしちゅー、(元)キングコング
リーダーの地位をうかがう、もしくはうかがえるポジションに位置する芸人さんです。
ここにポジショニングされる芸人さんが行うべき行動はリーダーに対する徹底した差別化戦略(価格競争も含む)です。
リーダーが取れないような戦略を打ち出すことで、違いを鮮明にしながらファンを獲得することが必要です。
たとえば、ロンドンブーツ1号2号がとった戦略は、素人いじりとPTAに嫌われる企画をすることです。
素人いじりはともかく、リーダーに位置する芸人さんは、PTAに嫌われることは好まないはずです。
それをあえてやることで、自らの市場を確保しています。
雨上がり決死隊の場合は、深夜帯におけるマニアックな企画によってポジションを維持しています。
番組をゴールデンに移行して万人受けの企画になるよりは、深夜帯でマニアックな企画を行うことで、リーダーと差別化していると言えるでしょう。
さて、元々このチャレンジャーにポジショニングしていたくりぃむしちゅーは、豊富な語彙をいかした突っ込みと雑学により差別化を行うことで、何度かリーダーへのシフトを試みました。
その試みは失敗に終わったわけですが、主な理由は、深夜帯での人気企画を捨て、万人受けの企画とすることで、元々のリーダーたちとの差が少なくなってしまったことによる失敗と言えるでしょう。
現在は、クイズ番組や他の芸人との絡みの中でその特異な突っ込みの能力による差別化を維持したまま、リーダーへの移行ができたと思われます。
くりぃむしちゅーの例でみたように、ここにポジショニングする芸人がしてはいけいことは、同質化戦略です。
特にリーダーとの同質化はしてはいけない行動ですし、リーダーがチャレンジャーへ同質化を仕掛けてきた場合にも注意しなければなりません。
ここに失敗したのが、キングコングです。
人気の冠番組を持ってはいるが、あくまでもチャレンジャーでありリーダーへ行くにはあと少しというところに彼らはポジショニングしていたわけですが、彼ら自身は自らの位置を勘違いしてしまったようです。
それも高い方に。
結果としてキングコングは、自らリーダーと同質化してしまう行動をとってしまい、ポジションを失ってしまいました。
フォロワー
大勢の芸人たちがここに位置します。
このグループに属する芸人さんがとるべき戦略は、リーダーやチャレンジャーに属するような“成功者=売れてる芸人”の模倣となります。
ただし、成功者からの報復には気を付けなければなりません。
「あいつ鬱陶しいな」と思われないようなアレンジ力や“売れてる芸人”からみてあまり美味しくない層をターゲットにするなどの工夫が必要となります。
そうする中で実力を蓄え、勝負の時を待っている人々ということも可能です。
例えば、フットボールアワーやブラックマヨネーズ、チュートリアル、タカアンドトシ(既にチャレンジャーかも)などは、チャレンジャーへの移行を狙っているように感じます。
テレビ出演という少ないチャンスに挑むわけですから、一時期流行した「選択と集中」が必要となるのもこのポジションです。
芸人さんの場合、一発芸などの流行ネタによってとっかかりを作ることが、この「選択と集中」となるようです。
タカアンドトシの場合は、「欧米か!」を徹底的にやり通すことで、このグループでは抜きんでた地位を獲得したと言えます。
ニッチャー
特殊な地位を占めている芸人さんたち。
出頭2:50、出川哲郎、ダチョウ倶楽部というとわかりやすいと思います。
あまりに特殊な地位であるために、他の芸人さんに持ち場を荒らされることもなく、ある意味で独占的な地位を維持しています。
さて、このニッチャーですが、当初は独自のポジションであったものが、次第に他者が参入し、それだけで独自の市場となる場合があります。
例えば、雛壇芸人や物まね芸人、デブ芸人などです。
これらの違いが判るでしょうか。
雛壇芸人の場合、その市場(視聴者や番組制作側からの必要性)が魅力的であること、リーダーやチャレンジャーとの相性がいいこともあり、新たな市場として独立しました。
現在では、雛壇芸人市場のリーダーは、土田晃之、フットボールアワー、チャレンジャーに山崎弘也ということが可能です。
物まね芸人の場合は、その中に入っていくためには高いレベルの芸が必要であることから、持ち場を荒らす新たな参入者が少ないと言えます。
この中でも、独自のポジショニングが行われており、コロッケを筆頭に物まね四天王やホリや原口あきまさといった芸人さんたちが、この市場を形成しています。
さて、デブ芸人の場合はどうでしょうか。
石塚英彦やパパイヤ鈴木、内山くんによって新たな市場として開拓されたデブ芸人市場ですが、その崩壊はあっという間でした。
理由は簡単で、太りさえすれば誰でも入って行けるという点にあります。
芸は弱く、キャラも薄い、じゃあ太るか、という安易な理由で、この市場には多くの芸人さんが参入し、元々の小さな市場を奪い合う形であっという間になくなってしまいました。
つまり、ニッチャーに位置する芸人さんが気を付けるべきことは、市場が拡大した時に他者の参入を招き、市場自体が崩壊することです。
また、拡大した市場が魅力的である場合には、リーダーやチャレンジャーに位置する“売れてる芸人”が参入することも考えられ、ここにも注意が必要です。
物まね芸人の場合は、高いレベルの芸によって参入を防ぎ、雛壇芸人の場合は、魅力的な市場である上に、リーダーやチャレンジャーがあえて参入する必要がないことが、それぞれに市場を守りつつ、新たな市場として独立することができた理由でしょう。
質問
ということで、コトラーの市場地位戦略をお笑い芸人に当てはめてみるという試みでしたがいかがでしたでしょうか。
それでは、最後に質問です。
あだ名付けでブレイクした有吉弘行が、どのようなポジショニングを取りながら現在の地位(リーダー、もしくはチャレンジャー)を確保したのか考えてみてください。
【飯田 展久/SOHビジネスパートナー】