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非物質的労働(無形労働)【古賀 克之】

労働の質的変化に関する議論と、そのために有用な概念のご紹介。

ソフトウェア技術者が生み出す成果物(ソフトウェア、プログラム、システム)は、以下のような特徴を備えている。

 

  • 物理的な形や質量が無い
  • 量と質が比例しない
  • 動作や出力を直接感じ取れない
  • 通常、2度と同じものを作ることがない

 

また、ソフトウェア技術者の労働(ソフトウェア開発)には、以下のような特徴がある。

 

  • 身体の動きを物理的に観察しても、働いている/いないを区別できない
  • かけた時間と成果(生み出す価値)が比例しない
  • 生活と労働の区別があいまい、区別がない
  • 仕事の中で、繰り返す要素が極端に少ない

 

例えば1950年くらいの日本において、このような特性を持つ労働は特殊だったかも知れない。しかし現在は、あらゆる業種のあらゆる労働が同じような特性を示しているように思われる。労働の質的変化の内容と方向性、および社会や経済に及ぼす影響に関する考察は、新たな商品やサービスおよびビジネスモデルを設計する上で有益かつ必要だろう。「非物質的労働(無形労働)」という概念は、そのための足がかりを提供してくれる。

 

 

先日、様々な年代・立場・業界から集まった8名で、「非物質的労働(無形労働)」の概念やこれまでの議論を共有し、これからのマネジメントや教育の姿や方向性について議論する機会を得た。以下、当日の議論から印象に残っている部分を列挙しておく。

 

マネジメントや組織形態の今後

 

今日のオフィスでは、多くの仕事はコンピューターとネットワークを使ってなされている。コンピューターを操作している人を物理的に観察しても、そこでなされている仕事の質や量を知ることは困難である。このような新たな種類の労働を、いったいどのようにすればマネジメントできるのか?経営組織の形態は変わるだろうか?

 

  • 非物質化(無形化)した労働の価値を高めるためには、主体性やモチベーションの維持・拡大が必要かつ重要である。
  • 新たな評価・管理手法を創造し導入する必要がありそうだが、現在はまだ過渡期であり、工場労働と同じような手法で非物質的労働(無形労働)を評価・管理している職場が多そうだ。
  • 特に大企業においては、既存の人事制度や中間管理職のマネジメントスタイルを抜本的に改革することは非常に困難ではないだろうか。
  • 中小企業やこれから創業する企業では、経営者のトップダウンで革新的なマネジメントスタイルを採用・導入できる。実際に、そのような事例も良く聞かれるようになった。

労働と教育の今後

 

コンピューターの性能は進化し続け、ネットワークやシステムは高度化し続けている。「人間でなくても出来る作業や判断」は自動化されて減っていく。さらには、ITシステムを活用したまったく新しいビジネスモデルや革新的なテクノロジーの登場によって、既存の労働や組織が大規模に消滅するケースもある。今後も必要とされ評価される労働とは、どのような労働だろうか?また、学校教育はどのように変わっていくだろうか?

 

  • 1900年代の工業化社会においては、論理的に思考して整然と情報を処理できる能力に価値があった。左脳的労働の時代。
  • 左脳的労働はコンピューターによって置き換えられていく。これからは直感・共感・感性・美・センスなど、右脳的な活動が価値を生み出す。右脳的労働の時代。
  • 画一的な思考や行動から、異端・異論・独特な視点・思考・行動へ。個々人が多様性を失わずに相互作用する社会へ。マルチチュード。
  • そもそも工業化前の労働は、非物質的労働(無形労働)的な特徴を多く含んでいた。工業化・自動化が飽和したその先に、再び人間的な要素が復権しているように感じる。
  • 大企業と同様、既存の学校教育体系も(前世紀的な意味での)完成度が高いために、変革は構造的に難しいのではないか。

参考文献(リンク)

 

マルチチュードとグローバリゼーションに関する論考や、ソフトウェア業界で発生している先行事例的な事象について知ることで、非物質的労働(無形労働)に関する議論や考察を深めることができるだろう。

 

 

 

古賀 克之/Class K】

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